キッチンや食卓の周りを飛び回り、衛生的にも精神的にも大きなストレスを与えるコバエ。殺虫スプレーを噴霧するには抵抗がある場所で、彼らを安全かつ効果的に退治したい。そんな時に絶大な威力を発揮するのが、ハエの嗅覚という弱点を巧みに利用した「めんつゆトラップ」です。この手作りの罠は、なぜあれほどまでにハエ、特にコバエ類を惹きつけ、捕獲することができるのでしょうか。その秘密は、彼らの食性と本能に隠されています。多くのコバエ、特にショウジョウバエやノミバエは、発酵した食品や腐った果物など、特定の「発酵臭」に強く誘引される習性を持っています。彼らにとって、この匂いは、栄養豊富な餌場であり、同時に子孫を残すための絶好の産卵場所であることを示す、生命線とも言えるシグナルなのです。めんつゆは、醤油やみりん、出汁といった、発酵や熟成の過程を経て作られる調味料の集合体です。これらが混ざり合うことで生まれる複雑な香りは、コバエが好むアミノ酸や糖分を豊富に含み、彼らにとっては抗いがたい魅力的な匂いとなります。さらに効果を高めるために、ここに数滴の酢や料理酒を加えると、発酵臭がより強調され、誘引効果はさらにアップします。しかし、これだけでは、コバエたちが集まってくるだけの「レストラン」になってしまいます。彼らを捕獲し、罠として完成させるための最後の仕上げが、「食器用洗剤」を数滴加えることです。通常、コバエは水の表面張力によって、液体の上に浮くことができます。しかし、洗剤に含まれる界面活性剤は、この水の表面張力を破壊する働きがあります。そのため、匂いに誘われてやってきたコバエが液体に着地した瞬間、表面張力の助けを得られずにそのまま液体の中に沈んでしまい、溺れてしまうのです。めんつゆの誘引力と、洗剤の罠。この二つの要素を組み合わせることで、化学薬品を使わずに、ハエの弱点を突き、彼らを自滅へと導く、非常に優れた捕獲装置が完成するのです。
ハエを罠にはめる甘い誘惑の秘密