私の平和な日常は、ある日突然終わりを告げました。お気に入りのカシミヤのセーターを取り出した時、そこに小さな穴がいくつも空いているのを見つけたのです。最初はただの経年劣化かと思いましたが、よく見るとセーターの折り目に、見慣れない茶色い抜け殻のようなものが付着していました。インターネットで震える手で検索し、たどり着いたのが「ヒメカツオブシムシ」という名前でした。ここから、私の長く孤独な戦いが始まりました。まず私は、クローゼットの中身を全て引っ張り出しました。すると、出るわ出るわ、衣類の隅や収納ケースの底から、幼虫の抜け殻や、中にはまだ動いている毛虫のような幼虫まで見つかったのです。その光景には、鳥肌が立ちました。私は半狂乱になりながら、全ての衣類を洗濯し、クリーニング店へ駆け込みました。クローゼットは空っぽにし、掃除機をかけ、アルコールで拭き上げ、防虫剤をこれでもかと設置しました。これで一安心、のはずでした。しかし数週間後、今度はキッチンの乾物ストッカーの中で、あの黒くて丸い成虫を発見してしまったのです。鰹節の袋に、小さな穴が開いていました。敵のテリトリーは、衣類だけではなかったのです。私は再び絶望的な気持ちになりながら、キッチン中の食材を点検しました。パスタ、小麦粉、ペットのドライフード。被害は広範囲に及んでいました。全てを廃棄し、全ての棚を掃除し、全ての食材を密閉容器に入れ替えました。家中を徹底的に清掃し、防虫対策を施す日々。それはまるで、見えない敵との終わりのない戦争のようでした。数ヶ月が経ち、ようやく彼らの姿を見なくなりましたが、今でも私はクローゼットを開けるたび、米びつの蓋を開けるたびに、一瞬身構えてしまいます。この経験は、日々の清掃と整理整頓がいかに大切かを、骨身に染みて教えてくれました。
ヒメカツオブシムシとの静かなる戦いの記録