それは、寝苦しい夏の夜のことでした。網戸にして眠っていた私は、夜中にふと、耳元で微かな羽音を聞いたような気がしましたが、睡魔に勝てず、そのまま眠り続けてしまいました。翌朝、悪夢は鏡の中にありました。右のまぶたが、まるでボクシングの試合後のように赤く腫れ上がり、目が半分しか開かない状態になっていたのです。腫れの中心には、ぷっくりとした小さな水ぶくれができており、そこから猛烈なかゆみが広がっていました。よりにもよって顔、それも一番目立つまぶたを、寝ている間に何者かに襲撃されたのです。その日は、大事なプレゼンを控えた日でした。パニックになった私は、まず氷で必死に冷やしましたが、腫れは一向に引く気配がありません。かゆみは増す一方で、無意識に掻いてしまいそうになる自分との戦いは、まさに拷問でした。仕方なく、私は生まれて初めて、眼帯をして出社することになりました。同僚からは心配され、プレゼンもどこか集中しきれないまま、散々な一日となってしまいました。皮膚科で処方された少し強めのステロイド軟膏を塗り続け、ようやく腫れが完全に引いたのは、それから五日後のことでした。犯人はおそらく、網戸の小さな隙間から侵入した蚊か、あるいはもっと小さなブユだったのでしょう。この一件で、私は二つの重要な教訓を得ました。一つは、寝室の虫対策の重要性です。それ以来、私は網戸の点検を欠かさず、電気式の液体蚊取り器を必ずつけて眠るようになりました。そしてもう一つは、顔を刺された時の精神的ダメージの大きさです。それは、痛みやかゆみといった物理的な苦痛以上に、人の視線が気になり、自信を失わせ、日常生活のリズムを狂わせる、非常に厄介なものであることを身をもって知ったのです。たった一匹の見えない敵が、これほどまでに一日を、いや、数日間を台無しにしてしまう。その理不尽さと悔しさは、今でも忘れられません。
夏の夜、私の顔を襲った見えない敵