本研究では、郊外の住宅地において蜂が寄ってくる家と、そうでない家の環境要因を比較分析し、どのような構造や植生が蜂の飛来と営巣を促進するのかを調査しました。対象としたのは、過去三年間に二回以上蜂の巣が駆除されたA宅と、一度も飛来報告がない隣接するB宅です。両宅は同じ時期に建てられた同一メーカーの住宅ですが、その維持管理方法には顕著な差異が見られました。まず、A宅の庭には生い茂った常緑樹が多く、特に高さ二メートルを超えるカシの木が複数植えられていました。これらの樹木は、蜂にとって外敵である鳥から身を隠すのに最適な密度を持っており、実際に駆除された巣の多くはこの茂みの深部に位置していました。対照的に、B宅の庭は低木が中心で、定期的な剪定によって全ての枝が外部から視認可能な状態に保たれていました。この視覚的な開放性が、蜂の営巣意欲を抑制していると考えられます。次に、建物の外部構造を詳細に調査したところ、A宅ではエアコンの導入管の周囲に経年劣化によるパテの剥がれがあり、そこが蜂の通り道となって壁の内部に巣が作られていた事例が確認されました。蜂が寄ってくる家においては、このような数ミリ単位の隙間が非常に重要な役割を果たしています。さらに、A宅の住人は屋外で趣味の園芸を行っており、肥料として有機質のものを使用していました。有機肥料が分解される際に発生する微かなアンモニア臭や発酵臭は、特定の蜂の種類を誘引する因子となることが知られており、本事例でもその影響が否定できません。また、A宅の勝手口周辺には、収集日まで保管される資源ゴミのストック場所があり、洗浄が不十分な果物ジュースの空き缶が散見されました。これが、夏場の蜂のエネルギー源として機能していたことが推測されます。一方、B宅では徹底した匂い管理が行われており、ゴミの集積所は完全に密閉されたステンレス製のボックスが使用されていました。さらにB宅では、春先の三月から五月にかけて、プロの推奨する木酢液を軒下に吊るすという防除対策を継続して行っていました。木酢液の放つ焦げ臭い匂いは、野生動物である蜂に火災の連想をさせ、本能的な忌避行動を誘発します。この予防的な匂いバリアが、蜂の偵察活動を初期段階で阻止していたと言えます。以上の調査結果から、蜂が寄ってくる家を回避するためには、第一に植生の視認性を確保すること、第二に建物の物理的な気密性を維持すること、第三に匂いの発生源となる有機物や糖類を屋外から排除すること、そして第四に、蜂の習性を利用した予防的な忌避剤を活用することが不可欠であると結論付けられます。蜂は決して無作為に家を選んでいるのではなく、生存と繁殖の期待値が最も高い環境を選別しているに過ぎません。住人が意識的に環境を管理することで、蜂の飛来リスクを統計的に有意なレベルまで低減させることが可能であることが本研究によって示されました。