あれは蒸し暑い熱帯夜のことでした。喉が渇いて台所へ向かい、照明のスイッチを入れたその瞬間、シンクの縁を悠然と歩く一匹のゴキブリ成虫と目が合いました。凍りつくような恐怖と嫌悪感が全身を駆け抜け、私は叫びそうになるのを必死で堪えました。格闘の末に新聞紙で仕留めた後、私はその一匹をゴミ袋に封印し、二度と出てこないように結び目をきつく縛りました。しかし、問題はその一匹がいなくなった後のことです。時計は深夜二時を回っていましたが、私は到底眠る気にはなれませんでした。あの大きな成虫がいたということは、他にもいるのではないか。どこかに巣があるのではないか。そう考えると、ベッドに入るのが怖くて仕方がなかったのです。私はその勢いのまま、キッチンの大掃除を開始しました。棚の中にある調味料を全て出し、油汚れ一つ残さないように拭き上げました。さらに、普段は重くて動かさないゴミ箱の裏や、冷蔵庫の側面の隙間を、懐中電灯で照らしながら隅々まで調べました。そこで見つけたのは、いつからあったのかも分からない小さなパンの屑や、埃の塊でした。これこそが、あの一匹を呼び寄せ、あるいは養っていた元凶なのだと思い、一心不乱に掃除機をかけました。夜が明ける頃には、私のキッチンはかつてないほどピカピカになっていましたが、私の心はまだ晴れませんでした。翌日、私はドラッグストアで考えられる限りの防虫グッズを買い込みました。配管の隙間を埋めるパテ、エアコンホースのキャップ、そして「巣ごと全滅」と書かれた強力な毒餌剤。それらを家中の死角に設置し、窓のサッシには忌避剤を塗り込みました。あの一匹が現れてから一週間、私は毎日家の中をパトロールしましたが、幸いなことに二匹目が現れることはありませんでした。あの成虫は、おそらく開け放していた窓から迷い込んだだけだったのかもしれません。しかし、その一匹のおかげで、私は自分の部屋がいかに隙だらけで、ゴキブリにとって魅力的な餌場になっていたかを思い知らされました。今では、あの一匹は私に掃除の習慣を取り戻させるために現れた、不気味なメッセンジャーだったのだと考えるようにしています。毎晩、寝る前にキッチンの水分を全て拭き取るのが、今の私の新しい日課です。