ある夏の帰省中、私は築四十年を超える実家の台所で、長年放置されていた床下収納の異変に気づきました。蓋を開けた瞬間に漂ってきたのは、古いカビの匂いと、何かが腐ったような独特の湿った空気でした。懐中電灯で暗がりを照らしてみると、そこには想像を絶する光景が広がっていました。基礎のコンクリートに沿って、土を固めたような細い道、すなわち蟻道が蛇のように伸びていたのです。それだけではありません。蟻道が木材の土台に接続するあたりで、数匹の巨大なクロゴキブリが慌ただしく逃げ惑うのが見えました。私はその場に立ち尽くし、全身に鳥肌が立つのを感じました。それまで実家ではゴキブリを見かけることはありましたが、シロアリの被害までもが進行しているとは夢にも思わなかったからです。翌日、専門の駆除業者に調査を依頼したところ、驚くべき説明を受けました。業者の話によれば、シロアリが木材を食害して内部を空洞化させると、その隙間は外部の天敵から守られ、かつ適度な湿気が保たれたゴキブリにとっての最高級のマンションと化すのだそうです。シロアリが木を食べることで生じる木の屑や、彼らが排泄した有機物は、ゴキブリにとっては貴重な栄養源の一部になることさえあります。つまり、我が家の床下では、家を破壊するシロアリと、不潔な菌を運ぶゴキブリが、一つのエコシステムを形成していたのです。シロアリが構造を脆くし、その副産物としてゴキブリが繁殖するという最悪の連鎖が起きていました。業者は、床下の通風口が荷物で塞がれていたことや、浴室からのわずかな水漏れが、この地獄のような状況を作り出した主犯であると指摘しました。私たちはすぐに駆除と防腐処理を決断しましたが、その過程で、家というものは見えない場所のケアを怠ると、これほどまでに脆く、かつ不気味な生き物たちの楽園になってしまうのだと痛感しました。あの蟻道を伝って逃げていったゴキブリたちの姿は、今でも私の脳裏に焼き付いています。シロアリ一匹の背後には何万匹もの仲間がおり、ゴキブリ一匹の背後には数十匹の家族がいると言われます。その両方が共存する空間が、自分の家族が眠る床のすぐ下に存在していたという事実は、住まいに対する私の意識を根底から変える出来事となりました。